2010年 10月 02日
米国の対外FDIのリターンが高いのはなぜか? これは、例によって人様の資料をパクらせていただきますw 国際通貨研究所:MOF委嘱「米国の対外投資分析と開発途上国及び我が国へのインプリケーション」 平成18年の資料ですが、優れた分析であり、現在についても十分に通用する内容。 このなかで米国の対外FDIリターンが高い理由を ①リスクプレミアム格差 ②米国市場の競争性の高さ ③持ち株会社活用による節税効果 ④再投資戦略の違いによる、米国海外法人の自己資本比率の高さ=財務コスト面の優位性 ⑤米国と海外の法人税率格差 などによって説明している。 このうち①リスクプレミアムについてはあまり説得力を感じなかったが、その他については十分にありうること。 例えば、U.S. Direct Investment Abroad: Balance of Payments and Direct Investment Position Dataなどから米国の対外FDIの状況を国別に見てみると、FDIは先進国、なかでも欧州に偏っている。欧州で56%、うちEUが49%、Euro圏が34%となっている。他に、ラ米が19%、カナダ7%など。 09年のFDIによる受取利息・配当金のうちで持ち株会社によるものの比率が高いのはオランダ(84%)、ルクス(90%)、スペイン(73%)、シンガポール(55%)となっており、持ち株会社を特定国に集中して節税を行っている可能性は十分にありそう。 また、CBOのデータ(ただし2005年)から、OECD諸国の法人税率と、米国からの対外FDIのインカム・リターンの関係を見てみるとこんな感じ。 赤丸は米国の対内FDIリターン(よって外国企業によるもの)。 相関性は必ずしも高くはないが、実効税率、投資優遇策などより詳細に確認すればもう少し説明力が上がるかも。わかんないけど。 この点は、法人税率について別の視点を与えてくれるだろう。 米国では法人税率が高いためFDIリターンが低く、より低い税率の対外FDIのリターンが高い。それによって、投資収益の大幅なプラスを生み出しているのかもしれない。また、後に見るとおりにキャピタル・ゲイン(対外資産価格の上昇)を生むことで対外ポジション(IIP)の改善に寄与しているのかもしれない。 基軸通貨制、国内金融市場の厚み(資金吸収力)、国内企業の対外進出の巧拙、など様々な要因が絡むわけだが、米国にとっては比較的高い法人税率が投資収益の黒字に貢献しているかもしれない、というのは非常に興味深い視点ではないかな? 以上の各要因は構造的とも言えるものであり、今後も米国の対外FDIのリターンは対内FDIを相当程度上回ると考えていいんじゃないかと思ふ。 #
by guranobi
| 2010-10-02 19:20
| 為替
2010年 10月 02日
次にインカム・リターンを見る。 インカム・リターンは(金利・配当等の)所得受取/対外資産・負債残高で計算する。 先に述べたとおり、インカム・リターンは所得収支として経常収支に含まれている。そのため累積経常収支とIIPの差にはインカム・リターンは関係ない。だけど、間接的には関係していると思う。 詳しくは調べていないんだがw、インカム・リターンが高い資産は時価評価においても「のれん」などで高く評価されるだろう。特に、時価が取れない資産、例えばFDI(海外直接投資, Foreign Direct Investments)の評価にはインカム・リターンが関係するんだと思う。 計算に際してデリバティブの扱いにちょっと迷いました。デリバティブは05年から計上されていて、リーターンを左右する。市場金利との比較から、今回はデリバティブを含めてで計算しました。金利収入を生まないであろう金準備や、ドル紙幣、さらにはSDR、IMF預け金は除外。SDR、IMFについては利息があるのかもしれないが、金額自体が小さいので全体に影響はほぼない。 その結果は、これです。分かりにくいでしょうけど、米国資産のインカム・リターンが米国負債(外国の対米投資)を安定的に上回っています。右側を見ると、インカム・リターン格差は70-80年代と比較すると幾分低下(77-93年平均 2.0%→94-10年 1.3%)していますが、90年代からは横ばいで安定している。 また、為替との関係は、名目実効ドルとの相関性が-0.6766と比較的高い一方、EUR/USDとの相関性は-0.1845とあまり高くはない。 次に、米国の所得収支の分類に従って、インカム・リターンについてもFDI、その他民間投資、政府、の3つにわける。すると、リターン格差を産み出しているのが主に米国の高い対外FDIリターンであることがわかる。 ・・・てか、竹中先生はじめ各レポートが指摘していることなんだがw ま、続けましょう。 この資産・負債それぞれに対する寄与度の差をとって、リターン格差の要因を見ると以下のとおり。 FDIのリターン格差が、インカム・リターンの格差のほとんどを説明できている。また、政府部門のマイナス寄与は米国債を保有する外国への支払いによるものだが、主に米国金利の低下に伴ってマイナス寄与度が小さくなってきている。これも、米国のインカム・リターン格差を維持する要因となっている。 ちなみに、これが資産・負債の構成割合の推移(ただし、デリバティブ除き)。米国の対外資産のうち、FDIは70年代後半の50%超から25%程度に下がっている。この程度の資産がインカム・リターン格差のほとんどを生み出していることは驚き。また、対外資産のうち株式の比率が高まっており、これがキャピタル・ゲインのうちの価格効果を生み出していると思われる。 #
by guranobi
| 2010-10-02 16:32
| 為替
2010年 10月 02日
さて、挫折の記録をタラタラと書きます。 人民元についての記事でもご紹介した竹中正治先生の論文は非常に興味深い。 グローバル・インバランスとドル基軸通貨体制の行方 米国の経常収支不均衡の趨勢的シフトとその要因 今回は、1番目の論文に関して素人なりに調べてみました。 ごく簡単に言うと、経常赤字が発生した場合にはそれと同額の対外純債務を負う。しかし、米国は過去に生み出した経常赤字の累積額ほどには、対外純債務=対外ポジション(International Investment Position, IIP)の悪化は見られていない。 例えば、60年から09年までの米国の経常収支の累積額は▲7.7兆ドルの赤字だが、09年時点でのIIPは▲2.7兆ドルに過ぎない。差額の5兆ドルは?これも簡単に言うと、為替差益(ドル安効果)、対外資産の価格上昇などのキャピタル・ゲインによって生み出された=純債務が減った。 ちなみに、利息・配当金などのインカム・ゲインは所得収支として経常収支のなかに含まれているが、この所得収支も米国は黒字すなわち受取超過となっている。 このような米国のキャピタル・ゲイン、インカム・ゲインの高いリターンは比較的長期にわたって続いており、もし今後も続くのならば、多少の経常赤字が続いたとしても米国のファイナンスの安定性は問題なくね?ということになる。 で、その実態はどうなのよ?ということで・・・ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 最初にFact!から。米国の累積経常収支は上と同じく60年以降。対外ポジションのデータは76年分から公開されている。ソースはUS BEA International Investment Position 米国の累積経常赤字とIIPは90年代までは比較的パラレルに推移していたが、2000年代に入って経常赤字が拡大したにもかかわらず、IIPのGDP比率は20%程度で横ばいとなっている。09年時点での累積経常赤字のGDP比率は55%である(累積経常赤字7.7兆ドル/09年名目GDP14兆ドル)。これに対してIIPのGDP比率は19.4%に過ぎない。また、対外資産、対外負債のGDP比率は趨勢的に上昇しており、特に2000年代に入って加速している。ただし、05年以降、デリバティブが資産・負債ともに計上されているために押し上げられていることには注意。 このような累積経常赤字とIIPの違いを生み出した理由は上に書いたとおり米国資産のキャピタル・ゲインだが、米国負債でもキャピタル・ゲイン(米国にとってはロス)が計上されているので、正しくは、資産・負債それぞれでのキャピタル・ゲインの差額によって生じている。 ソースは、上のBEAのページのChanges in selected major components of the international investment position, 1989-2009(エクセル・ファイル) このデータは89年からなので、経常赤字の累積も89年から測りなおしてIIPとの差異の要因を見てみた。 ちょっと分かりにくいけど、資産・負債それぞれに、価格変化要因、為替要因、その他の要因にわけてある。 おもな要因は、米国資産の価格要因と、米国資産のその他の要因、そして米国負債の価格要因である。 ここで、「その他の要因」とは主に実現益であるらしい。05年に資産・負債ともに「その他の要因」が急増しているんだけど、これはブッシュ政権での「雇用促進法」によって在外法人から米国親会社への還流額に対する税率が、通常の35%から5.25%に1年間だけ引き下げられたため。 ・・・という大まかな状況を見ると、 米国は対外投資によるリターンが高いため、多額の経常赤字にもかかわらず対外ポジションは悪化しなかった。さらに、資産・負債を両建てで拡大させているため、もし対外資産の高いリターンを続けることができるならば、今後も経常赤字を計上し続けても問題な~い、ということになる。 あるいは、、、米国が、安い金利で資金を調達してより有利な投資を行うために、レバレッジを拡大させてきたヘッジ・ファンド型の国家になりつつある、という見方もできるかもしれない。 (続く) #
by guranobi
| 2010-10-02 14:19
| 為替
2010年 10月 02日
==================== アイスランドの数値に間違いがありました。ご指摘、ありがとうございます。 お詫びするとともに、グラフを訂正いたしました。 ==================== 竹中先生の論文に触発されて、各国の対外ポジションを見ていたんですが、いやこれほどに欧州がひどいことになっているとはw 本筋は米国の経常赤字がどれほどで推移するだろうか、そして中国の国際収支政策はどうなるかを考えたかったんですが、挫折w 代わりに欧州でお茶を濁そうかと。 対外総資産と対外総負債の差額が対外ポジション(International Investment Position, 以下IIP)となるわけですが、IMFには各国の対外ポジションのリンクがありまして非常に興味深い。 International Investment Position (IIP) data 話題のアイルランドを見るとこんな感じ。 左上がグロスの資産、負債、IIP。08年時点でIIPがGDPの▲59%の純債務というのもかなりスゴイんだけど、資産が1219%、負債が1278%というは冗談じゃないかと。マジで計算ミスかもしれません。 ちなみに08年時点での外貨準備は7.46億ユーロでGDPの0.4%。足下のデータによると、1900万ユーロのマイナスに。うーん。 右上は、直接投資(FDI)、ポートフォリオ投資、その他の投資にわけた内訳。アイルランドは投資促進策によって米国などから製造拠点として資金が流入していた。それがFDIのマイナスになっていたわけだが、これ自体は問題なかった。問題は過大なポートフォリオ投資が貸借両サイドで起きていたことだろう(下段)。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ もっとスゴイのはアイスランド。 ========================================= スミマセン、計算ミスしてました。GDPを年率化してませんでした。ので、資産、債務ともに4倍表示になっておりました。お詫びいたします。 ご指摘、ありがとうございました。 ========================================= コメントのしようもない。 スペインも結構すごい。IIPは▲1兆ユーロに近く、GDPの90%程度。スペイン中銀の対外ポジションも▲234億ユーロの赤字に。 SPANISH INTERNATIONAL INVESTMENT POSITION ポルトガルのIIPもGDPの▲80%ほど。 んーーー。 #
by guranobi
| 2010-10-02 13:21
| 欧州
2010年 09月 26日
尖閣諸島問題が一気にこじれて民主党政権の腰砕けに終わってしまった。 てか、まだ問題は再燃する(再燃させる)可能性は十分にあるだろう。 3-4年前だったか、沖縄出身の中学・高校以来の友人2人と飲んだ。 そのときに、尖閣と沖縄の問題について話したことを思い出す。 彼らは、尖閣は日本領だし沖縄も日本であることを疑っていなかった。当たり前だが。 だが僕は、尖閣も沖縄も中国との間のグレーゾーンだと言った。 サンフランシスコ講和条約の締結前、すなわち日本が独立を回復する前に寝込み強盗のように武力占領された竹島は、江戸時代から日本が実効支配していて明白な日本領だが、尖閣は怪しい。 京都大学の井上清教授の論文「「尖閣」列島--釣魚諸島の史的解明」で指摘されている通り、琉球政府は尖閣を琉球領とはみなしておらず、日清戦争直前まで琉球を含めて日本が実効支配した歴史はない。 確か鄧小平だったと思うが、この井上説を中国首脳は把握しており、日本とのトップ会談の際にも触れている。中国はしっかりと戦略を練り、尖閣を狙っていたことは明々白々だった。 その手段が、問題の棚上げ、グレーゾーンの設定だと思う。境界線を明白にせず、相手国との力関係が逆転したと判断するや強硬手段で奪う。 ところが、、、グレーゾーンは尖閣だけではない。中国は沖縄もグレーゾーンと捉えていると思う。 中国は公式文書でも、公式発言でも沖縄を日本領土と認めたことはないはずだ。朝貢貿易の歴史を使って、琉球が中華帝国の一部であるとの主張を行って来ると思う。朝貢貿易を行っていたのは韓国もベトナムもそうなんだが、まー、チベットと同じようにするつもりだろう。 中国から見れば、米国にとってのキューバ、それ以上の脅威を感じる地政学的存在なんだから、手段を選ばずにやってくると思うべきでしょ? ・・・という話をしたら、彼らは「そしたら俺らはどうなるん?」というので、「中国の55番目だか56番目だかの少数民族になるんじゃない?」と答えた。彼らには冗談に聞こえたかもしれないが。 中国との付き合い方は、グレーゾーンを残さないことだと思う。曖昧さは侵略される余地を与えるだけだ。 その飲み会で僕が出した解決のための提案は、「中国が沖縄を日本領土と認めることを条件に、尖閣問題を国際司法裁判所にかける」ということだった。日中間のグレーゾーンをできるだけ小さくするために。たとえ裁判で負けても、紛争の種をなくすほうがどれだけ良かったか。そして沖縄の人々を守ることができた。 だが、、、そのチャンスはもうなくなったようだ。中国は司法裁判所にかけるという提案を逆手に取るかもしれない。中国がここまで大きくなったあとに問題解決に向かっても、圧力に屈したとの印象を内外に与えるだろう。 そもそも、中国の台頭と武力外交は見えていたのだから、将来を見据えた問題解決をするべきだった。 今回の船長無罪放免wは民主党の失策だが、尖閣問題を放置し続けたのは自民党政権だ。この問題については自民は批判する資格がないと思う。 中国が力の空白を埋めるために武力行使を躊躇しないことは、フィリピンから米軍が撤退した後にスプラトリー諸島に軍事進出したことからも明らか。真性バカのポッポが日米関係に亀裂を入れ、日中のGDPが逆転したチャンスを見事に活かしたといえる。 現状維持と権力に固執するばかりで、将来を見据えた判断ができない政治家を持ったことが不幸だ。 #
by guranobi
| 2010-09-26 17:49
| 中国
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