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グラの相場見通し

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2010年 08月 29日

バーナンキ講演について・・・反省してます

かなり量が多いです。ご注意。

The Economic Outlook and Monetary Policy

これまで米国を含めてマクロ情報をほとんど見てなかったので、Monthly Report on Credit and Liquidity Programs and the Balance Sheetを読んだりしたんですが、米金融政策に関するバックグラウンドがスッカラ管でしたね。エラソーにコメントしていたことが恥ずかしくなりましたよ。
それでも、今んとこの考えを書くわけですが。。。

最初に、前半の経済分析について。
気になることが3つある。

1つめは、バーナンキは住宅取得補助が4月で切れた影響の大きさを十分に認識していないように思えること。下線部分のように触れてはいるんだが、その後で住宅着工には強弱双方の要因があると言っている。住宅もかなり減ったのでGDPに占めるウェイトも寄与度も小さくなっている。だけど、先食いした反動は暫く続くはずで、住宅需要の低下→住宅価格の下落→銀行の財務内容の悪化+ネガティブエクイティ拡大による個人消費低下、というルートのリスクは十分にあるし、そうなったときのインパクトは非常に大きい。このシナリオに全く触れていないのは、意図的に避けているのか、ほんとに考えていないのか、わからない。

Household finances and attitudes also bear heavily on the housing market, which has generally remained depressed. In particular, home sales dropped sharply following the recent expiration of the homebuyers' tax credit. Going forward, improved affordability--the result of lower house prices and record-low mortgage rates--should boost the demand for housing. However, the overhang of foreclosed-upon and vacant housing and the difficulties of many households in obtaining mortgage financing are likely to continue to weigh on the pace of residential investment for some time yet.

これに関連して、2つ目は金融システムの脆弱性への懸念が見られないこと。
スティグリッツ教授:米国では、銀行がB/S上に抱える資産の多くが本当の市場価値を大きく上回る水準となっていることをわれわれは承知している
という見方もあり、金融システムの脆弱性は現に存在していると考えるべきだろうし、再度深刻化するリスクも十分にあるのではないか?

ただ、家計と中小企業向け融資がタイトであることはアネクドートも含めて把握しているようで、この点はちゃんと見てたのね。失礼なこと言ってごめんね、バーナンキ。


3つめ、最も懸念されるのは、個人消費を強めに見過ぎてないか、ということ。特にホームエクイティローンに全く触れていないのは解せない。ここで指摘したとおり、HELは家計所得・消費の抑制要因になっているのは間違いないし、その影響は14年いっぱいまで続く可能性が高いと僕は思う。

Consumer spending may continue to grow relatively slowly in the near term as households focus on repairing their balance sheets. I expect the economy to continue to expand in the second half of this year, albeit at a relatively modest pace.

Despite the weaker data seen recently, the preconditions for a pickup in growth in 2011 appear to remain in place. Monetary policy remains very accommodative, and financial conditions have become more supportive of growth, in part because a concerted effort by policymakers in Europe has reduced fears related to sovereign debts and the banking system there. Banks are improving their balance sheets and appear more willing to lend. Consumers are reducing their debt and building savings, returning household wealth-to-income ratios near to longer-term historical norms. Stronger household finances, rising incomes, and some easing of credit conditions will provide the basis for more-rapid growth in household spending next year.

短期的には個人消費は弱いけど、11年以降は伸びを高めるだろうと見ていて、その根拠を資産/所得比率の改善、所得増加、与信姿勢の改善、としている。
でも、ほんとにそうか?
なにをもって資産/所得比率が改善していると言っているのか不明だが、仮に純資産で見ているとしてもさほど改善しているようには思えないが。また、今の状況はネットで見るべきではない。資産サイドでは、株価による資産効果とは多分にセンチメントに影響されるものだろうし、足元では下落している。地価上昇の恩恵を実現したHELは効かない。逆に、ネガティブ・エクィティと脆弱な金融システムのもとで負債サイドでのHEL適正化圧力は必ず長期化ないしは(調整が短期ならば)激化する。→CR:Percent Homeowners with Mortgage Negative Equity by state
住宅・個人消費が弱いならば、雇用・所得は何をもって増えていくのだろう?また、住宅価格が下落するならば与信姿勢は一層タイトになるんじゃないか?
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バーナンキをはじめFOMCメンバーの経済見通しはこれまでやや強気過ぎた。その見誤った原因を彼は直視していない、ないしは認識していないように思う。

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以上の経済認識・見通しのもとで金融政策について述べている。
以前のFOMCで述べられたらしい(詳しく確認してません)、①長期証券の追加購入②金融緩和を続ける「期間」についての表現変更③超過準備付利(IOER)の引き下げ、に加えて④中期のインフレ見通しの引き上げ、について考察を述べている。以下、青色部分は概要を意訳。

①長期証券の追加購入
金融システム機器の局面では信用政策として大きな効果があったが、ここからのさらなる量的緩和(長期証券の追加購入)にどれほどの効果があるかは、未経験の領域なのでわからない。逆に、FEDの出口戦略を難しくするとの疑念を生めば望ましくない期待インフレの上昇を生むかもしれない。もちろん、インフレ期待がが低すぎたり、ましてやマイナスの場合にはインフレ期待の上昇はベネフィットとなる(Of course, if inflation expectations were too low, or even negative, an increase in inflation expectations could become a benefit.)

・・・とちゃんと言っているんだから、前半だけを切り取って悪用するなよ、日銀w

②金融緩和を続ける「期間」についての表現変更
略(ちゃんと「期間」の意味は伝えているけど、変更も検討するよ、という感じかと)

③超過準備付利(IOER)の引き下げ
効果は低いだろう(However, under current circumstances, the effect of reducing the IOER rate on financial conditions in isolation would likely be relatively small. )。なぜなら、IOERを引き下げたとしてもFFレートが10-15bp以上下がることはないだろうし、長期ゾーンへの効果はさらに小さいだろうから。また、IOERをゼロにすると短期金融市場の流動性に支障をきたす虞がある。

・・・だってさ。事の軽重もわからない間抜け、って言ってごめんね、白川。

④中期のインフレ見通しの引き上げ
今のところ、FOMC内ではこの選択肢に対する支持は全くない。恐らくは、デフレが長期化して中央銀行が物価安定を実現できないのではないかと公衆の中銀に対する信任が著しく弱まった場合には、インフレ期待をシフトさせるためにドラスティックな手段が必要とされるため、このような手法は理にかなっているかもしれない。(Conceivably, such a step might make sense in a situation in which a prolonged period of deflation had greatly weakened the confidence of the public in the ability of the central bank to achieve price stability, so that drastic measures were required to shift expectations. )
しかし、現在の米国ではインフレ期待は安定しているし、実際のインフレ率も物価安定の範囲に収まっているため、このような手段は不適切だ。FEDに対する信任を損ない、リスク・プレミアムを高めるかもしれない。


・・・下線部分は、日本と日銀のことですね。よくわかります。

では、どういった環境・基準でこれらの対策を検討・実施するかというと、a.デフレリスクが高まったとき、b.経済の著しい悪化が見られたとき。
At this juncture, the Committee has not agreed on specific criteria or triggers for further action, but I can make two general observations.

First, the FOMC will strongly resist deviations from price stability in the downward direction. Falling into deflation is not a significant risk for the United States at this time, but that is true in part because the public understands that the Federal Reserve will be vigilant and proactive in addressing significant further disinflation. It is worthwhile to note that, if deflation risks were to increase, the benefit-cost tradeoffs of some of our policy tools could become significantly more favorable.

Second, regardless of the risks of deflation, the FOMC will do all that it can to ensure continuation of the economic recovery. Consistent with our mandate, the Federal Reserve is committed to promoting growth in employment and reducing resource slack more generally. Because a further significant weakening in the economic outlook would likely be associated with further disinflation, in the current environment there is little or no potential conflict between the goals of supporting growth and employment and of maintaining price stability.

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と読んでくるとですね、FED内の意見の対立の前に、バーナンキの経済認識がちょっと甘いんじゃないか、もっと危機感を持って前のめりになっていいんじゃないかと思うのですよ。
(前の記事の内容とは異なりますね、すみません)

なぜなら、前のFOF分析で見たとおり、家計のHELの調整は14年くらいまでかかると思われるし、また、ABSのモーゲージ処分≒商業銀行の財務体質の健全化にも同じくらいの期間がかかると思う。もしそうなったら、デフレ圧力が今よりも強まるんじゃないかなー。

また、対策を打つ基準にはc. 住宅価格が加えられるべきじゃないか?住宅価格が再び下落し始めたら怖いよね?



対策①~④のうち、③IOER引き下げは確かに効果が小さそう。②期間は、④中期インフレ見通しを引き上げたときにペアで設定されるだろう(「コアCPIが2%を超えるまで異例な緩和政策を続ける」、とか)。
目先の具体的な対策は①長期証券の追加購入となるだろう。

ここで気になるのは、MBSもAgencyも、FOMCで定めた上限近くにまで膨らんでいるということ。

09年3月に決められた上限は、MBSが1兆2500億ドル、Agencyが1750億ドル、長期国債が3000億ドルなんだが、直近週ではMBSが1兆1032億ドル、Agencyが1565億ドル、長国は不明(たぶん調べればわかる)。MBSの余裕は1468億ドル、Agencyでは185億ドル、計1653億ドル。

FOFで見た、エージェンシー債・GSE-MBSのホルダーを見ると、Money market mutual fundsはあと3000億ドルは減らすかもしれない。Mutual Fundsが保有を増やすかもしれないが、恐らくは緩やか。海外は住宅政策が未だ不透明な中、売り手を続けそう。と見ると、FEDはMBSとエージェンシー債の保有を3000-4000億ドルは増やすのが望ましいし、その場合には今の上限から2000-3000億ドルほど引き上げられる、という感じか?
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少なくとも、低金利と住宅販売の低迷という状況では、今後のモーゲージ組成は借り換えが主体になる。となると、FEDが保有するMBSの償還がどんどん進む。バーナンキは講演で、2011年末までに4000億ドルがプリペイされると言っている。
そのプリペイをそのままFEDが国債に再投資していたら、エージェンシーやGSE-MBSをいったいどこが引き受けるというのだろう?

バーナンキが講演の最初に行っている通り、中央銀行の努力だけでは不足で政府部門の関与が不可欠。ファニー、フレディの最終的な処分には財務省・政府が損失を被らなければならないし、なによりもGSEに変わる住宅制度が明らかにならなければ、国内外の民間投資家の資金が住宅市場に入るだろうか?
新たな住宅制度の概要が明らかになるまでは、少なくともFEDが住宅資金を提供するしかないと思うののだが?

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もうちょっと話の続きがあって、FEDの債務を見るとこのように。もう紙幣なんて半分以下で、多くを超過準備に頼っている。で、2010年に入ってからは財務省からの調達が増えている。
MBS、Agency債、国債であれ保有量を拡大する場合にも財務省からの調達を増やさざるをえない。また、③IOERを引き下げると超過準備が減って、財務省からの調達を増やすことになる。この点からも、IOERを引き下げる可能性は低いと思う。
MBS償還分を国債に振り返るならば、財務省から調達した資金を国債に投入することになる。もちろん、短期調達、長期国債購入ならば、イールドをフラットニングさせる効果はあるが、国債に投入するよりも、もう暫くは信用政策を維持、拡大するべきなんじゃないかなー。
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たぶん、ピントがずれているところが多々あると思いますが、どうかお見逃しを。

by guranobi | 2010-08-29 23:02 | 米国


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