2010年 07月 09日
BSはタイヤの製造と販売を一体となって行うことで、特に日本のタイヤ市場において圧倒的な支配力を持っている、と僕は考えている。他の国内タイヤメーカーも製販一体の体制を持っているが価格支配力はBSに及ばない。 BSの製販一体戦略とは、BSが言うような”お客様発想を全ての起点とした真の「垂直統合型販売ビジネスモデル」”などではなく、川下の小売市場の首根っこを抑えることで割高な小売価格を維持し、高いマージンを維持しようという、”古いタイプのビジネスモデル”だと思います。 インドネシア工場などで低価格品の生産体制を備えアジアン・タイヤに対抗しつつ、国内の小売・卸市場の過半を抑えて割高な価格設定を維持する。その高いマージンによって、国内事業の高収益性と国内の工場・雇用を守る。また、製品のラインナップを多様化しタイヤ価格の単純な比較を難しくすることで顧客の価格感応度を低く保つ。エコタイヤのラベリング制なども、顧客の国産品信仰を保つために有効。 実際、今の消費財製造業で製販一体が実現している製品はどれほどあるでしょうか?自動車くらいじゃないかなー。家電量販店の登場によって”ナショナルショップ”が存在意義を失い、家電メーカーの収益力が凋落したように、タイヤも製販一体は維持できないのではないだろうか? タイヤって、品質差がそれほどに重要な製品でしょうか? 確かにタイヤは命に関わる部品なので、より良いものが望ましい。しかし、アジアン・タイヤと国内産の品質差は縮まってきている。 例えば、NHTSA:saferca.govでNexenなどのアジアン・タイヤとBSの品質と見比べると、BSの方が低かったりする。もちろん、長期間使用した後の性能など実際の品質は違うのかもしれないが、米国政府の公式レーティングではあまり差がなさそうだ。 走行中に突然破裂するといった粗悪品でない限り、タイヤって、磨り減ったら買い換えるという消耗品じゃないですか? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ もちろん、BSが高品質、高付加価値事業を国内に維持しようとしている姿勢は高く評価されるべきです。特に工場がある地域にとっては。 しかし、割高な価格で買わされている消費者の余剰は失われているわけだし、また、低価格品製造に特化させられているインドネシアなどは、本来はもっと高い所得と租税が得られただろう。マクロ的にはBSの製販一体戦略は機会利益を損なっている。残念ながら。 仏Michelinや米Cooperの資料によると、タイヤの製造コストのうち20-30%が人件費だそうです。 Michelinの資料によれば、雇用の65%がProduction workersなんだそうで、まー製造コストの少なくとも20%が人件費と考えていいでしょう。日米欧などの高所得国から生産拠点をシフトするだけで、利益率を大幅に改善できます。実際に、Cooperは米国の生産拠点を次々に閉鎖し、中国へのシフトを続けています。 米中のタイヤ摩擦の根底には、中国メーカーによる低価格品輸出が急増した面も確かにあるのですが、Cooperをはじめとする米タイヤメーカーによる生産シフトも大きく影響しているのです。 それと同じことが日本で起きないと考える理由があるでしょうか? ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 先に見たとおり、BSは系列店事業をテコ入れしようとしています。テコ入れというよりも、間接部門を簡素化したコスト削減策だと思いますが、当面は現在のビジネスモデルを続けるつもりのようです。 しかし、仮に系列店1店舗あたりの赤字額が1000万円程度だとすると、全1222店では100億円規模。すべてが直営ではないとしても、相当の赤字。これまでは国内の営業利益が1000億円を軽く超えていたので問題なかったわけですが、果たして維持していけるものか。。。 BSのビジネスモデルの恩恵を受けてきた企業の代表は他の国内タイヤメーカーですね。ただ、いつ倒産してもおかしくなさそうな東洋ゴムはBSの出資を受けたし、売りにくい。東洋ゴムは系列店が少ないし、ラインナップは増やせるしで、BSにとっては吸収するメリットはありそうなんですよね。 AutoBacksやYellowHatもBSの割高な価格設定の恩恵を受けているとおもいます。 カー用品店なんてAV製品は売れいないし、バッテリーやオイルなどの消耗品はホームセンターなどの量販店と競合するしで、経営が苦しいはずなのに、なぜか利益率が高い。直近の営業利益率は3-4%だし、営業CFは売上の6-8%も稼いでいる。売上の2割程度しかないタイヤの利益貢献度は大きいんじゃないかと。 だからね、BSのビジネスモデルが崩壊するまではタイヤ関連はしぶといというか、売りづらいと思うんですよね。 ただ、BSが割高な価格設定を維持するなら、海外タイヤの取扱などには成長余地が十分にあるんじゃないカナと思っているんです。
by guranobi
| 2010-07-09 23:58
| 日本経済
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