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2011年 05月 30日

米国の雇用・物価見通しのアップデート

ちょうど半年前に米国の雇用・物価動向の見通しを作成しました。今回はそのアップデートで。
本来なら2月くらいに行うべきだったのでしょうけど。

米国の中期経済見通し? 雇用・物価動向

その見通しの結果は、、、外しました。見事に。
金利は「デフレ・リスクが高まる展開なので、実質金利は比較的安定する一方で、BEIの低下が特に短-中期セクターにおいて見られると思料。よって、再びブル・スティープの展開を予想」と書きました。しかし、この半年間の展開はせいぜいレンジ相場。足下は金利が低下しているけれど、これはデフレ懸念というよりも景気の失速懸念によるもの。

また、GDP+3.25%成長を前提として、失業率は11年末で9.6%と予想したけど、既に9.0%にまで低下。GDP成長率が想定よりも低かったのですが、成長率の下ブレは失業率の上ブレ要因ですから、実際には1%ほど失業率の予想水準は違っていた。この見込み違いの主因は労働参加率=労働供給が予想以上に急低下したため。

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労働参加率については前回の見通しでも十分に検討したつもりだったけど、それでも甘かった。
米国の景気回復の初期においては、失業率が低下しはじめた数カ月は労働参加率も低下する(下図の青色の囲みの時期)。今回は景気後退が深刻であったことから労働参加率は2011年も緩やかな低下を続けるだろうと考えていたが、12-1月の低下は予想以上だった。
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興味深いのは、労働参加率のトレンドは全くといっていいほど変わっていないこと。つまり、若年層・中年層の労働参加率が低下し、高年齢層の参加率は上昇を続けている。12-1月の低下を含めて、今回の景気後退および景気回復初期では、このトレンドが加速したに過ぎない。
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下図は青色が進学率(Enrollment rate, 逆メモリ)で、赤色が労働参加率。年齢階層別。
前回の検討でも指摘したが、米国では高等教育への進学率が80年代後半から上昇するとともに、若年層の労働参加率が趨勢的に低下している。景気後退期に進学率は上昇するが、それは就職先を見つけるのが難しいための労働市場からの”退避”という側面だけではないだろう。趨勢的な進学率上昇が景気後退を機に加速しているとも言える。
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まー、イロイロ考えてみて、労働参加率の見通しを修正。外した分だけ、単に引き下げたわけですが。
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そして、新しい労働参加率のもとでの予想はこんな感じ。ULCは前回の15年に▲1.3%という”過激”な見通しではなく、13-14年に▲0.1%程度という緩やかなディスインフレ・シナリオに修正。
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ただ、これでも現在の一般的な物価見通しよりもかなり下に見たものだろう。実際に、コアCPIのみならずクリーブランド連銀の刈り込み平均などを見ても物価はボトムアウトしたように見える。
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しかし、失業率と賃金上昇率の”加速度(前年比上昇率の前年差)”の関係は変わっていない。失業率6%を大きく上回る状況では賃金上昇率は着実に鈍化している。大幅なGDPギャップが存在するために、デフレ圧力が継続している。こういう構造的な背景があると考えなければ、足下の金利低下は理解しがたい動きだろう。
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なので、Fedは11年内はもちろんのこと、12年も利上げするべきではない。

だが、、、ご存知のとおり4月FOMCの議事録で出口戦略を詳細に検討していることから、早過ぎる利上げにFEDが傾くリスクは高い。
「今回は結論を出さずに、出口戦略の検討のみを行った」というFOMCが1年以上続くと考えるのは難しい。議論するばかりじゃないはずなんだよな・・・

これまでも度々グチってきましたが、バーナンキは過剰債務問題とかのストック面の分析が甘い気がするし、FOMC内の合議制という名のリーダーシップの不足も気になる。タカ派に押し切られるリスクはリアルだ。

FEDのBSとか、FOMCの議論の傾向とか、まめまめに検討しなきゃいかんのだろうな~
もうちょっと米国についてはゆっくりできると思っていたんだけど。。。
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by guranobi | 2011-05-30 00:51 | 米国
2011年 05月 29日

省エネの果実を摘み取るのは産油国③

最後に、グラフを幾つか。
韓国はエネルギー消費が第2次オイルショック期と同等のGDP比10%にまで上昇している。また、ガスへの依存度を高めていることがわかる。中国は、オイルショック時はGDPが少なかったし、原油は自国生産だったので比較にならんですね。現在のGDP比はやはり10%。ブラジルはエマージングのなかではかなりの優等生。
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産油国は軒並み、とんでもなくエネルギーを浪費している。財政支援によって国内の小売価格を抑えているんですよね。消費国の省エネの果実は産油国の人々の浪費に転じているという構図。中東のみならず、エクアドル(15%)やエジプト(13%)も高い。
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欧州の債務危機の国々はエネルギー消費の面でも問題児。欧州の先進国としては高い水準です。ギリシャなんかは、ユーロ離脱→ドラクマ暴落となったら、大変だろうな~
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by guranobi | 2011-05-29 01:26 | energy
2011年 05月 29日

省エネの果実を摘み取るのは産油国②

ところで、この”原油消費/GDP比による上限”という考えは1つの示唆を含みます。それは、この”上限”価格が成立するならば、「日本を含む消費国が省エネに努めエネルギー効率を改善しても、その果実は生産国に吸い取られる」ということを意味するからです。

一般的に、1国のエネルギー効率の改善の程度はエネルギー原単位によって示されます。

エネルギー原単位=1次エネルギー消費量 / 実質GDP

例えば、われわれ日本人は1人あたり1日に10万kcalの1次エネルギーを消費しています。人間の1日の摂取カロリーのだいたい50倍ですね。ちなみに、明治20年ころのエネルギー消費は1人1日あたり4000kcalです。
そして、1円のGDP(2000年価格、実質)を生産するのに投じている1次エネルギーは9.5cal。これは、第1次オイルショック時のおよそ6割の水準です。1人あたりの1次エネルギー消費、そして実質GDPは趨勢的には上昇していますが、エネルギー原単位はオイルショックを機に低下し続けています(ソース)。
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つまり、日本経済は省エネに勤しむことでより低いエネルギーしか必要としないはず。ところが、、、
日本のエネルギー消費のGDPに対する割合は第1次オイルショックのときと同程度の4%。
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4割も省エネしたはずなのに、原油価格が実質ベースで8割上昇しているため、結局は(名目)GDPに対するエネルギー支出の割合は変わっていない。
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これは単純な話で、

エネルギー消費額 / 名目GDP = (エネルギー消費量 / 実質GDP)*(エネルギー価格 / GDPデフレーター)

と分けて考えれば、右辺の第1項はすなわちエネルギー原単位、第2項はエネルギーの実質価格ですね。省エネに勤しんでエネルギー原単位を引き下げても、エネルギーの実質価格が上昇すれば、その効果は相殺される。省エネの効果はエネルギー価格の上昇を通じて産油国に移転してしまう。

そこで、エネルギー価格が最初に触れた”上限”価格にまで上昇するのならば、あるいは、OPECがこの”上限”を目安に原油価格を維持するのならば、どれだけ省エネに努めてもそれは無駄な努力に終わるのではないでしょうか。

ここに、日本が再生可能エネルギーに転換していくべき、真の国益上の理由があるんじゃないかと思うんですよね。CO2なんかは関係なく。
少なくとも、脱”石油”を目指すべきなんではないかと。OPEC/サウジに価格決定権が握られている原油に依存するのは、国益を損なうリスクが高いと思うんですよ。

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ところで、、、話がコロコロ変わって恐縮ですが、前に触れた”原油消費/GDP比による上限”というのはちと高すぎますね。特に米国の事情を考慮するとこの上限価格はたぶん、高すぎる。というのは一般消費者にとって最も身近なガソリン価格は、原油とは違った動きをしているからです。

次のグラフは、上段が米国における原油、天然ガス(Henry Hub)、そしてガソリンの実質価格です。1922-72年の平均を10とした指数で、対数表示になってます。
原油と天然ガスは実質価格で見ても、オイルショックを機に価格水準が切り上がっている。しかし、ガソリンの実質価格は2000年代半ばまでほとんど変わっていない。90年代までは下落すらしている。

この原油とガソリンの価格を比較したものが下段のグラフです。ドル/バレルで、こちらは名目。灰色の面グラフはガソリン価格に占める原油の価格です。
オイルショックを境に、原油/ガソリンの相対価格が急上昇している。つまり、原油価格の上昇を石油精製段階での生産性向上が吸収し、ガソリン価格への転嫁を防いだ。だからこそ、ガソリンの実質価格は変わらなかった。オイルショック後、現在にいたるまで米国の製油所数は趨勢的に減少し、かつ大型化していますが、これらは石油精製、中間段階での生産性上昇を意味します。
しかし、2000年代に入って再び原油/ガソリンの相対価格は上昇し、今やガソリン価格の70%は原油です。もはや中間段階の生産性向上によって価格転嫁を防ぐ余地は乏しく、原油価格の上昇がそのままガソリン価格に転嫁されやすくなっている。更に米国は課税水準が低いためにガソリンの小売価格が日欧の半分程度なので、原油価格の転化率が高くなる。
これが、米国において特にガソリン価格高騰が顕著で消費者心理を圧迫している背景だと思う。そしてリファイナリーの倒産が囁かれている背景でもある。
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米国の小売売上高の内訳を見ると、ガソリン・ステーションの売上高は食料品店と同じ規模なんですよ。食料品販売はこれ以外にも百貨店・スーパーや通販にも含まれるので、全く同じ金額というわけじゃないけど。
日本で感じる以上に、影響が大きいだろうな~
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・・・というふうに、石油精製段階での生産性向上による吸収余地がオイルショックのときよりも難しくなっているため、オイルショック時の石油消費額/名目GDPで算出された”上限”は、おそらくは高すぎる。その前に、消費者が値を上げるだろうと思うのです。

じゃ、ガソリン価格をも考慮して上限価格を算出したいことこなんですが、それは根性なしには難しかったのでした。
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by guranobi | 2011-05-29 00:23 | energy
2011年 05月 28日

省エネの果実を摘み取るのは産油国①

芥田 知至:知られていない!原油価格高騰の謎

この本のなかで著者は、原油価格の上限の目安として、「原油消費のGDP比率がオイルショック時と同等になる価格」を提示しています。
原油価格が上昇して原油に支払う金額が膨らめば、消費国のエネルギー消費が減少したり、あるいはエネルギー転換が進むでしょう。そのため、原油価格にはある程度の上限があると考えるのは妥当です。てか、当たり前のことですね。
その上限の目安として、オイルショック時の原油消費/GDP比率を挙げているのです。

せっかくだから原油だけじゃなく、ガスと石炭の消費も加えて"上限価格"を計算してみたのですが、、、原油だけで出した数値とあまり変わらない結果になったのでしたw

2011年時点での”上限”は160-165ドル/バレル程度、12年170ドル/バレル、15年180-190ドル/バレルということに。ついでに米国、欧州(EU)のエネルギー消費に基づいた”上限”も。
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”原油消費/GDP比による上限”というのはとても興味深いものです。なぜなら、OPECの石油戦略に合致しているように僕には思えるからです。OPECの戦略が、「石油消費国を生かさず殺さず、ギリギリのところまで高い原油価格を維持する」ものだとするならば、この”原油消費/GDP比による上限”とは、すなわち消費国から搾り取れる上限を意味するように思えるのです。

僕は以前、石油価格についてというシリーズで石油価格決定の構造について稚拙な考えを示しました。すなわち、低コストのOPEC諸国、特にサウジが生産量を調整することによって、オイル・シェールやオイル・サンド、大深度などのより高コストな水準に原油価格を維持するという、寡占モデル(クールノー・モデル)による説明です。
OPEC/サウジが原油価格を操作しているのならば、その目標とする考え方に合致していると思うんですよね~
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by guranobi | 2011-05-28 19:11 | energy
2011年 05月 18日

原油とガスの欧米価格差③・・・ガス

次いでガス。
北米のシェール・ガス革命については広く知られるところですが、その”革命”は北米限定です。なぜなら、北米からガスを輸出する手段がないから。原油での中西部と同じように、北米全体でガスがダブついている。

JOGMEC: 米国:メキシコ湾岸におけるLNG輸出計画
JOGMEC: カナダ西海岸からのアジア向けLNG輸出計画

米国はカナダからパイプラインでガスを輸入しているが、シェール・ガス革命まではガス不足が懸念されていてLNG受け入れ基地を作りまくっていた。だけど、シェール・ガスが予想以上に低コストで生産され始めると、LNGでガスを輸入する必要がなくなり、LNG受け入れ基地の現在の稼働率はヒジョーに低水準にとどまっている。今は長期契約の輸入を仕方なく行っている程度らしい。

そこで、LNG受け入れ基地を持つCheniere Energy(NYSE: LNG)がシェール・ガスを液化して逆に輸出するべく取り組んでいる、というのが最初の記事の内容。

世界のガス価格は北南米と英国のみがガスの市場価格によって取引されているが、大陸欧州とアジアは原油価格に連動して決められている(ただし、欧州はロシアとの取り決めで3年限定で一部市場価格連動を採用。下のドイツ国境渡し価格と日本のLNG価格の差が10-11年に拡大している一因じゃないかと思う)。
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ここで天然ガスの価格を見比べてみる(ソースはBP statistical review)。ブレント原油価格との相対価格(下図)を見ると、90年代から2008年頃まではガス価格は原油の60-100%程度で推移していた。
しかし、09年以降は興味深い動向を見せている。09-10年には原油連動価格である日本のLNG輸入価格とドイツ国境渡しロシア産ガス価格(German border)は高止まりする一方で、市場連動価格である米Henry Hubと英NBP価格はガス需給の緩和を反映して原油価格以上に低下し、ブレントに対する相対価格も低下した。

しかし、11年に入ってHenry HubとNBPの価格は全く違った動きを示す。Henry Hubの価格が再び下落したのに対し、NBPはドイツ国境渡し価格にサヤ寄せするように急上昇した。このNBP価格の上昇は、原油連動である大陸欧州の価格に引きずられたという解釈もできるが、もう1つの側面もあると思う。
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ここで英国のガスの輸入と、生産・需要動向を見てみる(ソース)。英国はガスの生産が03年から減少し始め、04年から純輸入国に転落した(下図)。その後も国内生産の減少に伴って輸入が増加し続けているが、09年からはLNGが輸入増加をまかなうようになった。
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そして、これはIEA のWorld Energy Outlook 2010に掲載されている欧州の2020年時点でのガス輸入のコスト予想。欧州の消費地に入ってくるガスのうち最も低コストなのはノルウェー沖からのパイプラインであり、次いでアフリカ・中米のLNG、ロシア・ヤマル半島からのパイプライン(BP, ロスネフチの破談の案件)と予想されている。この図から、現在の英国の主要な輸入先であるノルウェー沖と比較して、LNGのコストは3ドル/MBtuほど高いと思われる。そして、高コストなLNGが09年以降の増加を担っていることから、英国が調達するガスの限界費用が急上昇したのではないだろうか。これが、NBPがドイツ国境渡し価格にサヤ寄せして上昇したもう1つの理由じゃないかと思う。
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英国と米国のガスの需給はたぶん、こんな感じに変化した。英国は国内生産の減少にともなって供給曲線が左シフト。需要を補うのは高コストのLNG輸入。対して、米国では国内のシェール・ガス生産の増加が供給曲線を右シフトさせた。この2つの市場は別々に存在している。
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この2つの市場を融合させるのが上のメキシコ湾岸でのLNG液化、あるいはカナダ太平洋岸でのLNG液化計画なんだが、、、そのどちらも順調にいって2015年以降のお話。

その時に米国と英国どちらの水準に価格が収斂するのだろうか?まぁ、ずいぶんと先の話なんだが、米英の差は最大でもLNGの輸送コスト=3-4ドル/MBtuに収まるだろう。現在のスプレッド5ドル/MBtuはやや大きすぎる。

原油市場との違いは、原油の場合には曲りなりにも鉄道やトラック輸送という代替手段があり、その輸送コストが裁定コストとしておおまかながらも機能している。それに対して、ガスの場合にはパイプラインとLNG以外の輸送手段、代替手段が全く無く、米英市場のスプレッドは輸送(=LNG)コストよりも大きく乖離している。だからこそ、メキシコ湾岸やカナダ太平洋岸でのLNG液化プロジェクトが動いているわけだが。

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また、EIAのリサーチのように大陸欧州でのシェール・ガスが大量に存在し、独仏などから低コストのガスが入って来れば英国の供給曲線が右シフトし、米英のスプレッドは更に小さくなるだろう。ただし、その場合にはメキシコ湾岸のLNG液化プロジェクトは採算性が取れなくなり、またもや空振りに終わることになるだろう。。。

これ以外に天然ガス価格に影響を与えるとすれば、原発事故および対石炭との相対価格の優位性からガス発電が本格化するなどの需要サイドの要因が考えられる。

短期的には、北米でのシェール・ガス生産が鈍化する可能性がある。恐らくは北米でのガスの価格が原油と比較してあまりにも低すぎるため、稼働リグがガスから原油採掘にシフトしている模様。
Baker Hughes: Rig Report
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・・・と、つらつら書きましたが、恐らくはエネルギーに詳しい方にとってはあたり前のことかもしれないし、あるいは全く的外れかもしれない。ともかく、原油とガスのスプレッドの背景についての、ど素人の理解はこんな感じなのです。
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by guranobi | 2011-05-18 02:39 | energy
2011年 05月 18日

原油とガスの欧米価格差②・・・原油

最初に原油から。と言っても、人さまからの引用に終始するわけですw

通常、油質の違いが原油価格に影響すると言われます。ナマの原油すら見たことのないど素人なので、その違いも価格への影響の程度も見当がつかんのですが。wikiによるとWTIとブレント、そしてドバイの油質は次のようになっている。

WTI: API度 (API gravity) 39.6, 硫黄分(sulfur) 0.24%
Brent: API度 38.06, 硫黄分 0.37%
Dubai: API度 31, 硫黄分 2%
また、09-10年にかけてOPEC諸国がWTIの代わりに参照価格に採用したASCIは、
ASCI: API度 28.25~30.25, 硫黄分 1.7~2.4%
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ソースは、Argus Sour Crude Index

幾つかの油種の合成指標であるASCIはドバイに近い中~重質油。一方、WTIとブレントはともに軽質油に分類されるが、その違いは僅かなもののように僕には思える。若干、WTIのほうが軽質かつ低硫黄なので、通常はWTIのほうがブレントよりも高品質=高価格と見なされる。

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WTIの相対価格が下落している理由についてだが、この記事の説明が最も詳細で分かりやすかった。
Our Finite World: Why are WTI and Brent Prices so Different?

今回、はじめて知ったことですが、米国の石油関連の統計では本土48州がPADD(Petroleum Administration for Defense District)と呼ばれる5つの地域に分かれている。そして、 WTIの現物引渡しが行われるオクラホマ州クシンを含めた中西部はPADD2に分類されている。
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このPADD2にはパイプラインによって南北から原油が送られてくるが、出て行くパイプラインはほとんどないか、あるとしても容量が小さい。そういう構造のなかで、北部からカナダのサンド・オイルの輸入が増えたほか、PADD2に含まれるノースダコタ州のシェール・オイルの生産が急増したため、PADD2において原油がダブついた。これがWTIの価格を押し下げた、ということらしい。

ft.com/alphaville: WTI’s upcoming ‘Keystone’ problem


実際に、PADD2の原油在庫だけが10年末頃から急増している。
Weekly Petroleum Status Report
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他に参考にしたもの。
Econbrowser: Brent-WTI spread
EIA "Today in Energy FEB 28, 2011": WTI-Brent crude oil price spread has reached unseen levels
ロンドン滞在記:WTI-Brentスプレッドの拡大

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ここで、参考にした記事ではカナダ・エドモントンから伸びるKeyStone Piplineの第一弾が2010年4月に開通したことをPADD2での原油ダブつきの主要因として挙げている。しかし、PADD2の輸入量(ほとんどがカナダから)とノースダコタでの原油生産を並べてみると、ノースダコタの生産が急増していることのほうが影響は大きいんじゃないだろうか?
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これも全く知らなかったんですが、ノースダコタの原油生産は過去3-4年急増を続けていて、今やテキサスに次いで全米第2位の原油生産州となっている。そのほとんどがオイル・シェールから産出されているらしい。知らんかったな~
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しかし、ノースダコタの原油はその輸送コストの高さから他地域よりも大幅なディスカウントとなっている模様。ここで提示されている価格はビッド・プライスなので必ずしも取引価格というわけではないだろうが、WTIよりも16ドル安く、カンザスなどその他地域よりも10ドルほど安い。

上のOur Finite World氏が引用している記事によれば、クシンからメキシコ湾岸までの輸送コストはトラックで10ドル/バレル、鉄道で6ドル/バレルらしい。クシンからノースダコタまではこの倍の距離がある。WTIに対するノースダコタ油のディスカウント16ドルは輸送コストに見合った水準なんだろう。

足下では原油価格が下落している。更に下落した場合には、ノースダコタのシェール・オイル(そしてカナダのオイル・サンド)はもともと採掘コストが高いだろうし、加えて輸送コスト高による売値のディスカウントから採算性が急速に厳しくなるだろう。たぶん、テキサスなどのストリップ・ウェルズよりも採算性が厳しいため、ノースダコタから生産が落ち込み始める。そして、PADD2での原油ダブつきが緩和され、WTIとブレントのスプレッドが若干縮小する。。。といっても、過去の原油価格と生産動向からは、WTIが80ドル以下になって初めて起きることだろうが。

シェール・オイルに関する参考記事。
Our Finite World: Is “shale oil” the answer to “peak oil”?
Business Watch: Adding value to oil: Refining the state’s energy industry

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年初来の原油価格の変動にもかかわらず、WTIとブレントのスプレッドは10-15ドルで維持されている。『スプレッドを決めているのは、クシンとメキシコ湾岸までの輸送コストであり、マージン込みで考えて10-15ドル/バレルが適正なスプレッドだろう』というDennis Gartman氏の見解(上の引用と同じ)は正しかった。

他の要因もWTI-ブレントのスプレッドに影響を与える。米政府の承認待ちであるKeyStoneパイプラインの増設(KeyStone XL)はエドモントンからノースダコタ、クシンを通ってメキシコ湾岸を直接結ぶ計画だが、これが順調に承認されるとしても、KeyStone XLの稼働は2013年と見込まれている。それまでスプレッドは解消しないというのが一般的な見方だろう。

また、メキシコ湾岸からパトカに原油を送っているConocoPhillipsのCapline Pipelineが逆送されて中西部からの輸送ルートが確保されれば、同様にスプレッドは解消に向かうだろうが、ConocoPhillipsは逆送させる予定はないそうだ。

この他、オイル・シェールの採掘に関する環境規制が強化されればオイル・シェールの採掘コストを引き上げるためスプレッド縮小要因となるが、一方、KeyStone XLに関する環境規制が強化されると、中西部における原油ダブつきが続くため、スプレッドが維持される要因となる。

・・・というふうに、原油に関しては米中西部(PADD2)における市場の分断が価格差を生み出し、そのスプレッドは中西部から世界市場(メキシコ湾岸)への輸送コストによって決まっている、ようなんですが、これと同じような構図はガスにおいても生じていると思うのです。
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by guranobi | 2011-05-18 01:13 | energy
2011年 05月 17日

今更、原油とガスの欧米価格差について①

まったくもって今更ですがw、自分なりに理解しときたかったので。

最初に、価格差の動向から。

原油・・・WTI(US)とブレント(UK)のスプレッド(ともに1ヶ月先物)。期間は過去5年。
過去にもWTIとブレントのスプレッドが拡大したことはあるけど(07年5月など)、今回はそのスプレッドの大きさもさることながら、スプレッド拡大の期間が長期化していることに特徴があり、投機マネーや先物のロール・コストといった金融面の要因ではなく、構造的な変化が起きたことが背景にありそう。シルバー・ショック後もスプレッドは縮小していないし。
Bloomberg: 1st Month WTI Brent Spread
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次に、ブレントとドバイのスプレッド。同様に、期間5年。
恐らくはガソリンなどの軽質油・液体燃料の需要増加とリビア政変を反映して、2011年に入ってからブレントの価格はドバイに対して上昇しているが、せいぜい3-4ドル程度の上昇でしかなく、過去5年の水準と比較しても例外的に高いというわけじゃない。つまり、WTIとブレントの価格差の拡大は主にWTIの相対価格の下落によるものだと思われる。
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ガス・・・NBP(UK)とHenry Hub(US)のスプレッド。原油とは逆に欧州 - 米国なのに注意。こちらの期間はデータの制約から、1年。
INO.com: NBP Henry Hub basis swap, Jun 2011
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ガスが過去1年を通じて欧米間スプレッドが拡大していたのに対して、原油は今年に入って急速にスプレッドが拡大しています。

そもそも2-3年前までは、『カタールのLNG輸出が本格化し、ガスの取引市場が世界的に拡大するとともにガス価格が収斂し、原油のような一物一価が実現するのだ』と考えられていたはず。
だけど、今おきているのはガスの欧米間価格差の拡大。そして原油価格の欧米間スプレッドまでが拡大している。

convergence (収斂)のはずが、divergence (格差拡大)が起きている、という不思議。しかも、高度に統合されていると見做されていた原油市場までがdivergenceしている。

なぜ?

ど素人なりの結論は、原油・ガスともに、①市場の分断と②米国における生産急増(シェール革命)③欧州における資源枯渇、によるものだというものです。そして④スプレッドを決めるのは裁定コスト(輸送コスト)である、ということも似ている。
規模は全く違いますが。
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by guranobi | 2011-05-17 00:26 | energy