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グラの相場見通し

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2009年 11月 28日

おまけで・・・

コメント欄へのお返事が長くなりそうなので、記事にて

ROM人さん、
引き続き読んでいただき、また、コメントしていただき、ありがとうございます。
米国について触れて頂いて、ありがとうございます。米国に関することをあまり書いてなかったので、妄想の続きを。

キッシンジャーの考えを理解できているとは思えませんが、、、『外交』の主題の1つは、米国外交の軸として理想主義(例外主義)と、国益(現実主義、バランス・オブ・パワー)の2つを挙げていて、理想主義に走りがちな米国の外交姿勢を、もっと国益重視の外交=バランス・オブ・パワーに移行させるべきである、というものです。

アメリカはそれゆえ、19世紀のヨーロッパと多くの類似点を持つ世界-しかも世界的広がりを持つ世界-の中に自分がいることに気付きつつある。それゆえ、メッテルニッヒのシステムと同類のものが親展するのを期待することができよう。彼のシステムでは、バランス・オブ・パワーが、価値観を共有することによって強化されている。そして現代においては、この価値というものは民主主義であるべきである。・・・下巻p536

この最後の部分の「民主主義」は、彼の思考の流れとは異質であり、たぶん、資本主義と置き換えるべきでしょう。

米国政治の説明でよく見かけるのは、ウィルソニアン、ジェファソニアンなどの4類型に分ける方法ですが、僕にはよく理解できなかった。それよりも、キッシンジャーの言う理想主義と国益という2つの軸で考えたほうが解りやすい。たぶん、この2つの軸は交わることがなく、そして通常は国益の軸が理想主義よりも上位なのだけど、重要な転換点では理想主義の軸が国益よりも上位に来て、外交の方針を決める。WWI、WWII、冷戦、など。

理想主義はウィルソン以前は孤立主義に直結していたけれど、ウィルソンによって海外と関与する方向に180度変えられた。しかし、国民感情の根底には依然として孤立主義が根強くあるのだろうと僕は思います。

この米国の理想主義というのがクセモノで、時として米国の国益を損なうことがある。キッシンジャーはその例としてスエズ動乱を挙げていて、英仏、そして米国自身の国益を損なってでも米国は英仏に撤兵を迫った。
キッシンジャーは理想主義によって米国外交の判断が狂わされるべきではなく、冷徹な国益重視の外交、バランス・オブ・パワーを貫徹すべきだと言っているんでしょうが、、、それは裏を返せば、米国の理想主義の持つ”危うさ”を認めている、ということですね。

ROM人さんの言う”調停者”としての米国は、国益の面も、理想主義の面も持っている。通常は、米国の関与を(同盟という形で無いにせよ)受け入れた地域の国々からは「アメリカの理想主義、うぜー」と思われながらも基本的には歓迎されている。それは、受け入れ国の国益にも適うからです。だけど、理想主義が変な方向に行ったら、端的には孤立主義に回帰したら、簡単に撤退などの双方の国益に反することもやりかねない。
また、キッシンジャーは米国の対イスラエル政策に触れていませんがw、これは理想主義が国益を上回っているケースですね。調停者になっていない。米国のイスラエルへの肩入れが、イスラエル保護のためなのか、それとも(田中宇さんの言う)破壊するためなのかは不明ですが、キッシンジャーの論で言えば肩入れをやめるべきです。

対米外交の要諦は、この米国の理想主義を味方につけることじゃないかと思います。逆に言えば、理想主義が自らを標的にしないように、慎重なうえにも慎重に対応しなきゃいけない。日米同盟は国益だけの繋がりですね。キリスト教や歴史的経緯という理想主義での繋がりもある、ラ米やNATO、ANZASよりも基本的に脆い。米国の理想主義は、基本的には建国の精神である宗教観を背景にしているので、宗教は大事です。

中国の立場で考えると、現状の日米同盟は東アジアに安定をもたらしているので中国の国益にも適う。しかし、十分な成長を実現した後には日米同盟がウザくなってくる。米国が普通の国ならば、海上輸送のかなめであり、国益にも合致している日米同盟を破棄するということはまずあり得ないんだけど、、、理想主義が孤立主義にブレたときには、日米同盟を米国から破棄することもあり得る。中国はその時流の変化を待ち続けるだけでいい。50年でも100年でも。それまでは、信頼できるパートナーを演じ続ければいい。

日本の立場では、まず、国益だけの脆い繋がりだという危機感が必要。鳩山にはそもそもこれがない。
そのうえで、米国の理想と異なる中国の姿、すなわち反民主主義、異民族への弾圧、反バチカンの姿勢などを影に日向に喚起すべきだと思います。
ところがハトポッポは、、、逆に米国にウゼーと思われ、不信感を招いている。


ともあれ、『外交』は本当に素晴らしい本でした。18世紀以来の膨大な外交文書や論文、歴史書のなかから、エッセンシャルオイルだけを抽出したような内容で、その芳香に圧倒されました。イスラエルに触れていないとか、中国のアドバイザーなんじゃないかとか、まーイロイロありますが、キッシンジャーは現代の知の巨人ですね。彼とツーショットのポジさん、ウラヤマシス。までも、ポジさんほどの知性がなければ側にいるだけで足がすくみますw


『外交』を読んでいて、頻繁に中国のことが浮かんだのです。中国は国際政治のことも戦略的に運んでいるような気がしてならない。通貨制度や金融制度などでも頻繁に感じることですが。。。良質の理論書を読むと、中国のことが浮かんでくる。
勃興する大国にしては中国指導部の言動には傲慢な姿勢が少ないように思う。それは、彼らが長期目標を明確に持っていて、それに至る戦略を実行しているだけであり、現在の成功も彼らの想定内のことだからだと思うのです。

僕がずーっと気になっているのは、中国の長期戦略を一体だれが作ったのか、ということです。たぶん、特定の人物か、複数だとしても極めて少数のグループが作ったのだと思う。恐らくは、存命中の朱鎔基ではないかと思うのですが、そうでないとしても、彼が首相の間に総入れ替えした国務院の部長クラスあたりかなーと。ご存じの通り、朱鎔基はそれまでの国務院の陣容を一掃して大卒のテクノクラート集団に一変させています。その人々は、習近平・李克強などの第5世代に相当すると思います。つまり、中国の指導部の質はこれから更に高まるだろうと。。。

鄧小平の偉大さは、中国と言う巨艦の舵を切ったことですが、その方向に最適の専門能力と行政力、実行力を持つ朱鎔基を見出したことでもあり、その偉大な遺産が今の中国を支えていると思います。

小沢は彼にとっての朱鎔基を見出さなければいけないはずですが、彼がそれだけの眼力を持っているとは思えないのです。

by guranobi | 2009-11-28 14:10 | 国際政治


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